プラスチックの
これまでとこれから

生分解性プラスチック
ー課題解決技術(1)ー

生分解性プラスチックとは

生分解性プラスチックは、通常のプラスチック製品と同じように使え、しかも使用後は自然界の微生物や分解酵素によって水と二酸化炭素に分解される、自然に還るプラスチックと定義されています。ポリエチレン、ポリプロピレンといった汎用プラスチックは自然界で分解せず、環境中に廃棄されたプラスチックの多くは蓄積されます。プラスチック製品の著しい普及に伴い、1970年代に廃棄プラスチックの環境への悪影響が社会問題化し、生分解性プラスチックの開発研究がスタートしました。

セルロース、デンプン等の天然高分子の多くは生分解性を示しますが、熱可塑性を持たないためにプラスチックとして利用できません。上市されている生分解性プラスチックの多くは微生物あるいは酵素で分解されるエステル結合を有する脂肪族ポリエステルです。生分解性プラスチックの主たる用途として、マルチフィルムに代表される農業・土木資材、食品残渣(生ごみ)収集袋、カトラリーやストロー等の食品容器・包装材料が挙げられます。

一般消費者が生分解性プラスチックであることを識別できる表示制度があり、日本バイオプラスチック協会が定めた基準をクリアしたものに「生分解性プラ」が表示できます。ペットボトルに用いられるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)はエステル結合を有するポリマーですが、自然界でほとんど分解されないために生分解性プラスチックに含まれません。

代表的な生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、石油由来のものとバイオマス由来のものに分けられます。代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)は、光合成により二酸化炭素を固定化したバイオマスを原料に製造されるため、ポリ乳酸の燃焼や生分解により二酸化炭素が大気中に放出されても、二酸化炭素量は増えません。米国では、Nature Works社がトウモロコシ由来のデンプンを原料に、年間生産量14万トンのプラントを稼働しています。タイや中国でも大規模に製造されています。

最近、海洋生分解性プラスチックとして注目されているポリヒドロキシアルカン酸は微生物産生ポリエステルであり、ある種の微生物が細胞内にエネルギー貯蔵物質として蓄積します。1990年代にイギリスICI社により生分解性プラスプラスチックとして実用化されましたが、プラスチックとしての性能が不足し、高価格であったため、他社に事業が譲渡されました。その後、カネカにより別の種類のポリヒドロキシアルカン酸(PHBH)を実用化され、こちらは現在実用化されているプラスチックの中で最も高い海洋生分解性を示します。

コハク酸とアジピン酸から製造されるポリブチレンサクシネート(PBS)は、昭和高分子が生分解性プラスチックとして実用化しました。コハク酸は従来石油由来原料から製造されてきましたが、最近、バイオマス原料を使用したコハク酸の発酵合成が工業化され、三菱ケミカルとPTT GC社(タイ)の合弁会社が “バイオPBS”としてタイで製造しています。ドイツBASF社は、石油化学プロセスにより製造される生分解性プラスチックである”ポリブチレンアジペートテレフタレート”(PBAT)を工業化し、最近は中国や台湾でのPBATの工業生産が活発化しています。

生分解性プラスチックの今後の動向

欧米では生ごみを自宅でコンポスト処理することが多く、生分解性プラスチックのごみを同時に堆肥にできます。一方、日本では一般家庭の多くにはそのような設備が無いため、生分解性プラスチックの用途が限定されてきました。PHBHは嫌気発酵によりメタンガスが発生するため、発電に利用できます。中国では2020年に主要都市で非生分解性プラスチック袋の使用が禁止され、2022年までにそれ以外の地域にも拡がるため、生分解性プラスチックの製造設備が急激に増強されています。

欧州バイオプラスチック協会が発表した、2026年のバイオプラスチックの製造量予想は、2021年の3倍以上であり、アジアでの伸びが大きく、中国の市場動向に依ると考えられます。材料別の予想ではPBSPBATといった軟質生分解性プラスチックの伸びが大きく、PBATはバイオプラスチックの最大シェア(約30%)となり、5倍近い製造量の伸びが予想されています。一方、同期間でのポリ乳酸の製造量の伸びは約1.7倍に留まり、PBATの約1/3ほどの製造量になると予想されています。

生分解性プラスチックに対する社会的要請は国の廃棄物処理の状況により異なります。廃棄物処理のインフラが十分に整っていない発展途上国の多くでは、ごみに含まれるプラスチックの海洋等への流出を止めることができません。その結果として、これらの国々をはじめとして海洋プラスチックごみ問題の解決に貢献できる生分解性プラスチックの重要性が、今後一層高まり、市場も拡張していくと思われます。

執筆者のご紹介

 宇山 浩(うやま ひろし)教授

大阪大学 工学研究科 応用化学専攻 工学博士

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